野村川湯YH 「音」の思い出 | 野村川湯YH 野村川湯ユースホステル

「音」の思い出

連載「音」の思い出

特別だったあの頃
ミリ(村松美里)

人混みをかき分けて街を歩いている時、スーパーで買い物をしている時、書店で立ち読みをしている時、ラーメンをすすっている時……。

ふと、どこからか馴染みのメロディが聴こえてくることがある。その瞬間、日常はストップモーションとなり、あの頃の世界が私を包む……。たちまちにして疲れたおばさんは、キラキラの乙女に戻ってしまう。

実家に帰って納戸をゴソゴソしていたら、出てくる出てくる思い出のギュッと詰まったレコード。小遣いやお年玉を貯めて、ワクワクして買ったレコードたち。初めてレコードなるものを聴いたのは、赤いソノシート。確か、「小学一年生」の付録だったような気がする。

指紋がつかないように、レコードの端っこをそっと指と指とで支えプレーヤーに乗せる。33回転に回転数を合わせ、神経を集中して針をそっと置く。スピーカーの前で息を凝らしていると、少しカサカサした音がして、曲が流れ出す。

ひとつの曲を聴くための神聖なる儀式。とても、贅沢な時間だった。

「神田川」で同棲に憧れ、「なごり雪」では旅立つ自分を重ね(自宅通いだったけど)、エドウィンのベルボトムに、国防色のジャケットを着て、あ~「春だったね」と酔いしれ、チューリップ、憂歌団、清志郎、ハッピーエンド……。

そういえば、学生時代に通いつめていた喫茶店があった。小田急線の玉川学園前駅のはずれにあった小さな店で、マスターのお気に入りだった加山雄三が、いつ行っても掛かっていた。

友人たちと、夜な夜な語り明かしながら聴いたのは、イーグルスやツェッペリンだ。「天国への階段」のイントロがはじまると、皆、無口になった。

そして、ユーミン。

平凡な毎日にあってもメロディが流れ出すと、一瞬にしてユーミンの世界に染まる。夢とも現実ともつかない、どこか乾いた物語は、いつも何だかよくわからないモヤモヤした私の気持ちを、心地よく奪い去ってくれた。

夜明けの雨はミルク色~と、繰り返し聴いては、黄昏れ、思いを深く沈ませて、時間を忘れた。もちろん錯覚だと知ってはいても、私の心の奥に妖精たちが降りてくるようだった。

胸がときめいた時、めげそうになった時、彷徨っていた時、いつもレコードに針を乗せていた。思い出の音楽はつきない。

あれからも沢山の曲と出会ったけれど、あの頃の胸キュンは、やっぱり特別だったんだと思う。■

コメント

  1. ながさか より:

    俺、イルカのなごり雪!

  2. 真。 より:

    同感だなぁ。私は友部正人の「一本道」を聞くと今でも泣きそうになったりするのです。

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