その3
平田内(ひらたない)温泉 熊の湯
下関(一柳 仁)
(北海道二海郡八雲町)
入湯/2017年5月
源泉掛け流し
湯温/約70度
泉質/ナトリウム塩化物
温泉好きの間で、「野湯(のゆ、やとう)」といわれるのがあってね。
ザックリいうと、野湯は、温泉宿や日帰り湯みたいな商業的な施設や設備がなくて、山野や河原、海岸のような自然のなかに源泉(温泉)が自噴したり、流れ出たりするのをそう呼んでいて、まぁ、あとは利用者の判断で勝手に入るような、とでもいったらいいのかな。こういう温泉が、全国あっちこっちにあってさ、意外に多いんよ。
当然、えらい山奥とかね、だいぶん歩いて辿り着くような、行きにくい、キケンなとこにもあるしねえ。かつて温泉宿だったのが廃業したりして、源泉や浴場施設がそのまま放置されて、そのうち野湯になっちゃった、みたいなところもあるよねえ。
なかには、地元の有志の方たちが管理したり、温泉好きの人やらが、それなりに手入れしちょる場合もあるんやけどさ。野湯のほとんどは、無人やね。
それと、維持・管理費を徴収するためのカンパというか、寸志を入れる料金箱が置いてある場所もあれば、無料のところもあるよ。
たとえば、硫黄山の、ユースの裏手から登ったところに、みんなで露天風呂を作ったりしちょったでしょうよ。それとか、屈斜路の砂湯とかね。ああいうのも、野湯やね。
この熊の湯も、山のなかにあってねえ。野湯ファンにはよく知られた人気の温泉で、訪ねる人も多いといわれとる。
定年退職してからすぐに、俺は奥さんとふたりで、北海道へ旅に出掛けたんよ。結局、3カ月間ほど、うろうろと道内を廻っとった。……はぁ? 夫婦仲がええって? まあねぇ、時々ケンカもしよるけど、そう仲は悪くない、のかなあ。それはともかく、フェリーで函館に着いて、最初に向かったんが熊の湯やった。
ここは野湯なんやけど、場違いにちゃんとした脱衣場が建っとって、ここでハダカになる。そこから川の縁にある露天風呂までは、下り坂をとことこと降りて行くんやけど、上の道路からも下にある温泉からも、その姿が丸見えなんよねえ。もう俺はどうしようもなくて、股間のモノをゆらゆらとさせながら、さ。
下に降りると、やっとふたり入れるかどうか、というほどの広さの岩がくり抜かれたみたいな、窪んだような湯溜まりになっていて、そりゃあ混浴よねえ。ここでは、奥さんは入らなんだよ、念のため。
源泉掛け流しの湯量は申し分なくて、さらに、まあまあ熱くて俺好みなんよ。
足を長く伸ばしてさ、岩の曲線に沿って寝そべり、全身を湯に浸す。すると、すぐに俺のなかから邪心や俗念がすーっと抜けて消え、乳白色のスクリーンみたいなもんが降りて来たと思ったら、たちまち頭が軽く、空になった。この瞬間が、なんともええんよ。
感じるのは、湯触りと熱と、微かな温泉の匂い。すぐ下を流れる清流・平田内川の瀬音、それに川伝いに流れる風の涼やかさよ。野湯に入る醍醐味は、こうした土地の息吹までも体に感じられることやろうね。しかも、そういうすべては束の間であって、温泉の湯を娯しむこととは、風を追うようなもんやからねえ。だからまた、次々と別の湯にも入ってみたくなるもんなのかもよ。
さて、今夜は近場の道の駅でも探して車中泊し、明日は、ニセコに向けて走ることにしようか。(談)
コメント
シモノセキさん先日は連絡ありがとうございました。
長らくどうしてるもんかなぁ?と考えていたので、この企画を考え、運営してくれたトモノさん達スタッフに感謝です。
野湯もいいですよね、北海道に負けず劣らず東北にも数多くの野湯があります。
個人的におすすめは奥奥八九郎の湯かな?天然のジャグジー風呂です。
風呂の周りにはクレソンがいっぱい自生しています。近年マナーの悪い人が原因でトラロープを張っているような記事を見ましたが自己責任(あたりまえですが)で入ることは可能のようです。他にも登山の途中で入る野湯もありますが開放感は最高です。(開放的すぎるところもたまにキズ)
いつかのんびりと酒でも酌み交わしたいですね。