目の前にある教科書のなかの風景
ロンドン/London(イギリス)
オバケ(大川教子)
■強い興奮を覚えたワタシ
初めて海外旅行にでかけたのは、22歳の夏でした。
当時、海外旅行は、今ほど手軽でなかった時代でした。なので「この旅は、一生に1度かも?」と、そんな想いで、覚悟を決めてでかけたのです。
目標地は、西ヨーロッパ。しかも、できるだけ沢山の場所を訪れたい、そんなことを思って、ミーハーな、でも生真面目な私の、ヨーロッパ22日間の旅が始まったのです。
それで海外の、最初に私が足跡を残した記念の地が、ロンドン。
当時、ヨーロッパ便は、アンカレッジ経由。16時間もかかりました。そのためにヒースロー空港に降り立った時は、もう体力の限界でヘロヘロでした。
始まったばかりの旅でしたが、ロンドン市街の空気も、風景も、ちっとも体に入ってこず、感動なんてまったくありません。あぁ、帰りにまた飛行機に乗るのかぁ、と思って、ウンザリしていたくらいです。
……なのに、市内観光でビッグ・ベンを見たとたん、飛び上がらんばかりの強い興奮を覚えたのです。
だって、中学の英語の教科書に載っていたその場所に、今、自分がいるんですから。目にするすべてのものが、急に、新鮮に映りました。ドキドキが止まりません。
次に向かったのは、大英博物館。行かれた方は、ご存知かと思いますが、めちゃくちや広い! ここでも美術の教科書で見たものがたくさん。本物の放つ力は、やっぱり凄い‼️
素晴らしい芸術品を数々見て感動した一方で、エジプトの展示室で、古代遺跡の壺や装飾品だけでなく、オベリスク(塔のようなもの)を見た時、「これ全部、略奪品だ」と思ったら、感動が一気に覚めたのを覚えています。
でも、素晴らしいのは、美術館や博物館などが無料なんですよね、寄付は集めているけど。ところが、たとえばロンドン・アイの観覧車などはとても高い。5年前に訪れた時、1回乗るのに、確か、3000円位したと思います。「文化にはお金を出すが、娯楽には出さない」という、イギリス人のメリハリのある姿勢が、私は好きです。
そんなロンドンの印象をひと言でいうとしたら、文化を大切にしていて、人々は気高く、街は洗練されていて、全体的にキッチリとした感じで、好感が持てるのです。
ロンドンの食べ物はあまり美味しいモノがない、あくまでも個人の好みですが。
でも、どうしても食べてみたいものがありました。それは、「フィッシュ&チップス」、これも英語の教科書に載っていたし。
しかし、食べてガッカリ……。ただの白身魚のフライとポテトチップス。噂通り、特別な味ではなかったのです。ところが、なぜか心は「これぞロンドン」と充足感でいっぱいでした。これが旅マジック。私は浮かれていて、完全に、旅の雰囲気に酔っていたのでしょう。
教科書に載っていた非日常を現実として味わうことで、なんでもない白身魚が極上の食べ物に変身してしまうのです。
普段、私は大の食いしん坊。でも、旅に出ると、胸が一杯になり、なぜかお腹も満たされ、少食になってしまいます。意外に、繊細なところもあるんですよ。だって、非日常の刺激で満腹になってしまうから。
やがて、新しい体験で心が満たされると また、日常に戻りたくなります。そして、丁寧に、大切に、毎日を生きることができるようになるのです。
私にとって旅に出ることは、何気ない日常をしっかりと確実に過ごすために、欠かせないことなんです。■
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