ナガサカとオバケが訪れた国々は、ふたり合わせると100を越えている、といわれます。 といっても、旅の方法や目的は、各々まったく違っていて、楽しみ方はいろいろで、興味もそれぞれでいいのです。 そんなふたりが、世界中の街をふらふらと訪れて、見たこと聞いたこと、感じたこと、喰ったもの出したもの、など、写真とともに、たくさんの愉快な、時々、大失敗とか、思い出を縦横に書いて、その街の魅力を紹介してもらおうと思います。
君のことが好き
なんだぁ!
コンヤ/Konya(トルコ共和国)
オバケ(大川教子)
[旅のデータ]ヨーロッパの東端、また、アジアの西の端にあるトルコ共和国は、首都・アンカラよりも、国際都市・イスタンブールがよく知られる。国民のほとんどはムスリムというお国柄だ。古都・コンヤは、トルコ中南部の内陸、中央アナトリア地方の主要都市のひとつ。人口は約120万人。アンカラとトルコ高速鉄道で結ばれ、およそ90分ほど。今回の旅程では、バス移動によりカッパドキアから、パムッカレに向かう途中にコンヤに立ち寄った。
■彼の誘いに乗ってみる
エジプト旅行ですっかり土臭い文化に魅了されてしまった私は、次はトルコに行こうと決めていました。なぜ、トルコに狙いを定めたかというと、トルコに行ったことのある同僚から、話を聞いていたからです。まだ現代的に都市化されてはいなくて、適度に自然が残され、歴史の深い、混沌とした文化が入り組んだ国・トルコ共和国にしよう、と決めていました。
トルコの玄関口・イスタンブールに降り立ち、ブルーモスク(スタンアフメト・モスク)の圧倒的な美しさと大きさに、駆け出したいような衝動にかられました。 壁面を飾る、タイルの美しさ。なかに入るとひんやりとした空気が、なんともいえない静寂さを醸し出していました。アヤソフィアや地下宮殿などを巡るうちに、この国では日本とはまったく違う文化を繋いでいるのが、実感としてよくわかりました。
こうしたエキゾチックで魅惑的なイスタンブール市街も素敵ですが、今回の旅で大きな楽しみのひとつにしていたのは、カッパドキアです。今まで見たことのない、あの「きのこ岩」を見るために私は、イスタンブールを出発しました。
火山が作った数々の奇岩や、地下都市、岩窟教会などを見て廻り、カッパドキアにすっかり満足した私の次の目的地はパムッカレでした。長距離バスを使っての移動を選んだので、一気には進めず、途中で乗り継ぎのために、古都・コンヤに立ち寄ることにしました。
コンヤに着いてバスから降りると、すぐに色々な人たちがわやわやっと私に近づいてきます。適当にあしらいながら、目指す観光スポットに向けて進んでいると、いつまでもしつこく着いてくる若者がいました。
「ハーイ、日本人? ガイドしてあげるよ」
「私、ひとりで歩き廻りたいので……」
「お金はいらないから」「本当に必要ないからね」といいます。
かなり強く断っても諦めず、まったく離れていく気配がありません。
「僕は、日本語の勉強をしたいんだよ」などともいってきて、私にまとわりついてちっとも遠ざかりません。
そのうちに、「あなたは日本に恋人がいるのですか?」とか、まだ会ったばっかりなのに、ずいぶんと踏み込んだ、繊細な個人情報を平気で尋ねてきます。でも、そうしてアレコレと話しているうちに、どうやらコイツはそんなにキケンでもなさそうだし、私の英語のトレーニングにもなりそうなので、まぁ、いいのかな、と、少しずつ気を許すようにもなりました。私の堅い防衛本能が、じわじわっと崩れていきました。
彼の名前は、アリといいます。20歳代の後半くらいでしょうか。当時の私よりも、ちょっとだけ若い感じでした。そして彼のひたむきさに、ついに根負けしてしまった私は、街を案内してもらうことに同意し、一緒に歩くことにしました。
……それで、大体、コンヤ市街のめぼしい名所をぐるっと回った後でした。
「もっとステキなところがあるから、行こうよぉ」と、アリがちょっと甘えたように、誘ってくるのです。
『えっ、ステキなとこ?』『……どこだろう?』と、私はやや取り乱し、ひょっとすると意識してはいませんでしたが、ほんの少しだけどこかで期待もしていたのかもしれません。
で、いわれるがままにタクシーに乗せられて向かった先は、郊外の石造りの教会でした。なかを見学しているうちに、いよいよ、でした。
「僕は、君のことが好きなんだ!」
「……はあ?」
「どうして僕の気持ちをわかってくれないんだ」
とかいいながら迫ってきて、ついに彼は泣きだす始末。まんざらウソ泣きでもなさそうな、ね。でもそうなると、ドンドン冷めていく私。なんとも恋の道行きは、いつも複雑で難しいものなんですよねえ。
その後、私たちは早々に市街に戻り、いよいよサヨナラを告げようとしていると、
「君は、絨毯には興味ないかい?」といきなり尋ねられ、私を絨毯屋へなんとか誘おうとするのです。
『ははぁ、……これが彼の最終目的なのか』と思ったものの、実は日本を旅立つ前から このトルコの旅ではホンモノの手織り絨毯かキリム(つづれ織りの平織り物)を買おうと私は思っていて、イスタンブールの絨毯屋を随分、巡ってはみたのですが、気に入った品に出会えずにいたのです。
おぉ、渡りに船とはこのことです。旅の妙味も、こんなところにあるもんなんだな、との思いを表情には出さずに噛みしめつつ、私はアリ君の誘いに乗ってみました。
そして、連れて行かれたその店で出会ってしまったのです。
はぁ、……なんともいえない触り心地。それまで触ったものとは、まったく違って、優しくもあり、また、しっとりとした気持ちいい手触りなんです。色や柄も気に入ったのですが、「10万円」と言われ『ひょっとしたら、ボラれているかも?』と思いつつも、私は納得してその絨毯を買うことに決めました。こういうものは、出会いですからね。
その時に求めた絨毯は、30年経った今も我が家の宝物です。
カッパドキアの風景に感動するはずなのに、やっぱり今回もそれ以外の思い出の方が印象深い旅になってしまいました。旅は人生と同じで、ちっとも計画通りになんていきませんし、いつもトラブルとハプニングの連続です。それで、いいのよね、と、自分に言い聞かせつつ、私の現在があります。■
コメント