野村川湯YH 樹木医・真くんの 「樹木百景」 | 野村川湯YH 野村川湯ユースホステル

樹木医・真くんの 「樹木百景」

連載 樹木百景

3)ソメイヨシノ/
下手に切る馬鹿
Cerasus×yedoensis’Somei-yoshino’
真くん(堀 真也)

そよ風が流れ、実に麗しい、日本の典型的な春の情景といったら、こんなイメージではないでしょうか。 撮影=すべて筆者

♪この~木なんの木 気になる木 みんなが集まる木ですから~

 

みんなが集まる木といえば、サクラほど人々を集める木はないでしょう。

花の季節には、日本全国で花見が始まります。群桜の下で群衆が飲んで食べて歌って踊る。そんな平和な国は日本だけです。世界に誇れるかどうかは別ですが。

花見は大和朝廷時代に天皇や神官など位の高い人々の宴として始まったとされ、サクラよりウメの花を愛でていたそうです。やがてウメより艶やかなサクラが人気となり、江戸時代に入ると暴れん坊将軍吉宗が、荒川堤や飛鳥山など各地に桜を増植し、庶民が楽しめる花見の文化を作っていったとさ。めでたし、めでたし。

もし、「桜の森の満開の下」で、ドキッとするような美女に出会ったら、気軽に声を掛けてはいけません。全身が紫色の、老婆の鬼が、女に化けているかも知れないからです。

子供たちにとっても、やっぱり桜の咲く時季となると、ウキウキしちゃうものなんですねえ。

こういう穏やかな場で、とくにオジサンたちは、つい飲み過ぎてクダを巻いたり、乱れたりしていませんか。皆さんとともに健全に、桜花と春を楽しみましょう。

日本のサクラは原種が11種類。交配種や変種では600種を超えると言われています。その中でも一番有名なのはソメイヨシノで、なんと日本のサクラの約8割を占めています。ソメイヨシノは改良種で、接ぎ木により増植されたクローンであることはご存知でしたか? だから一斉に咲き、一斉に散るのです。

全てのソメイヨシノは接ぎ木か挿し木で育てられており、種から発芽したものは存在しません。サクラは「自家不和合成」という性質を持ち、自身の花粉では受精出来ないので、虫や風が周辺のサクラの花粉を運んでくることにより受精し、結実します。しかしソメイヨシノは全てクローンですから、全てが自身なのです。結果ソメイヨシノ同士では、受精しません。が、種は出来ますし発芽もします。でもそれはソメイヨシノ以外のサクラの花粉による受精であり、それがヤマザクラであればやがてヤマザクラか雑種の花が咲くのです。[近年、日本のサクラの約8割にも及ぶソメイヨシノと近隣のサクラ属野生種との遺伝子の交雑(花粉による)により、野生種の遺伝的特徴が失われる危険性が問題視されている。]

このソメイヨシノ、花はとても綺麗なのですが、病害虫に弱く剪定や折れた傷跡などから腐朽菌が入ると、とても腐り易いのです。そこで生まれたのが「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」という諺です。聞いたことありますよね。そんなことから寿命は50~60年とされていますが、いやいや決してそんなことはありません。

青森県の弘前公園のサクラはどれも長寿で、現存する日本一長寿のソメイヨシノは、樹齢135年でこの公園にあります(日本一太い幹周は5.37mでこれも同公園にある)。また「ソメイヨシノは300年は生きるはず」と言う研究者もいます。(ちなみにサクラの最高樹齢は、山梨県の山高神代桜で推定2000年、岐阜県の淡墨桜は1500年。どちらも原種のエドヒガンである。やはり原種は強い。)

「根尾谷薄墨桜(ウスズミザクラ)」は、エドヒガンという種の桜。樹齢は1500年を越えています。日本の三大桜のひとつ。国指定の天然記念物(岐阜県本巣市)。

幹回りは9メートルほど、樹高は約17メートルあります。サイズだけでなく、この「根尾谷薄墨桜」の存在感には、いつ見ても圧倒され、ただ黙してしまうのです。 白い花が、散り際にはやがて淡い薄墨色に変わることから、この名で呼ばれています。

Q:ではなぜ、弘前公園のソメイヨシノは長寿で、毎年見事な花を咲かせるのでしょう?

 

A:適切な管理方法。例えば古く元気のない枝を切り取り、若く勢いのある枝を育てていきます。それに正しい剪定位置での切断。バークリッジとブランチカラーを見極め、フラッシュカットに注意しナチュラルターゲットポイントで切れば腐朽することもありません。ですから「桜切る馬鹿」を正しく言うと「桜を下手に切る馬鹿」です。このような枝の更新技術は、リンゴの木の剪定方法を手本としているそうです。さすが青森。

「揖斐二度ザクラ」国指定天然記念物(岐阜県揖斐郡大野町)。 1本の樹に一重と、八重の2種類の花が咲き、また、八重の花の一部には咲いて萎むと、さらにもうひとつの花芽が出てきて開花するため「二度ザクラ」といいます。不思議な、学術的にも貴重な種といわれます。筆者が、桜守としてこの「揖斐二度ザクラ」を維持・管理しています。「花守の花よりさきに老にける」子規。

沖縄にソメイヨシノはありません。植えたとしても花が咲かないのです。ソメイヨシノが開花するには寒さが必要で(これを「休眠打破」という)、鹿児島や沖縄では暖か過ぎるのです。最近では温暖化による暖冬で、本州でも咲き方に影響が出ているようですよ。では寒冷地はどうでしょうか。ソメイヨシノには−20度に耐える耐寒性がなく、北海道の北部では育ちません。でも沖縄ではカンヒザクラ、稚内にはエゾヤマザクラがあり、日本中にサクラは存在します。そして、1月に咲くカンザクラから12月に咲くヒマラヤザクラまで、1年を通して日本のどこかでサクラは咲いています。それを追いながら全国を旅するなんてどうですか、ロマンですよね。

カワヅザクラの花の色は妖しく、強い生命感が感じられ、梶井基次郎がいったように、桜の樹の下には人の「屍体が埋まつてゐる」のかも、と思ったりもして。

満開のサクラは単木でも綺麗ですが、群桜となれば絶景です。

人も集えば病害虫も集います。例として、病害では葉に「せん孔褐斑病」、枝には「テング巣病」、幹に「コフキタケ」、根に「ナラタケモドキ」。虫害は穿孔虫の「コスカシバ」、食葉昆虫(幼虫期=ケムシ)の「オビカレハ」「アメリカシロヒトリ(年2回発生)」「モンクロシャチホコ」(モンクロシャチホコは素揚げにして食べると、ほんのりサクラの香りで美味らしいです。是非)などなど数えきれません。でも一番の天敵は人間です。植えるだけで後は知らん顔だったり、花見で根元を踏み荒らしたり(根の損傷及び土壌の固結による踏圧害)、立ちションしたり(生糞尿は肥料にはなりません。むしろ害です。熟成させてからにください)。

桜を食害するモンクロシャチホコ(蛾)の幼虫。毒はありません。 素揚げにすると美味いそうですが、この姿を見ると、どうでしょうか?

人の手によって作り出されたソメイヨシノは、やはり人の手で守り育てていかなくてはいけません。そうすることでまた来年、いや何十年も何百年も美しい花を咲かせてくれることでしょう。

物言わぬ樹木、その場から逃げることができない樹木を労わることは、人間にしか出来ないのですから。

満開のサクラを見たら「ありがとう」と一言かけてみてはいかがでしょう。

ではまた。真。■

 

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