(5)アカマツとクロマツ
Pinus densiflora & Pinus thunbergii
真くん(堀 真也)
♪この~木なんの木めでたい木……マツです。
日本人にとって一番馴染みがある樹木と言えば「松」ではないでしょうか。アカマツ、クロマツ以外にもマツ科マツ属で○○マツと名の付く樹木は日本中、至るところに生育しています(北海道の木に指定されている「エゾマツ」は残念ながらトウヒ属です)。
マツは菌根性樹種の代表であり痩せた土地でもよく育ち(逆に肥沃な土壌を嫌う)、1年を通し青葉を持つことから長寿の木、繁栄するめでたい木として人々に親しまれてきました。また、神様が降臨する木であり(奈良春日神社の「影向の松」はその代表)神社仏閣には必ずと言っていいほど植えられていますし、能舞台の正面は必ず松の絵です(能舞台の松は鏡に映った松という設定で鏡板といい、演者は松に降臨した神様に向かって舞う)。
マツは建築材としても優秀であり、東大寺大仏殿の大虹梁(屋根を支える梁)は23.5メートルのアカマツであり、東京駅の改修工事で出てきた100年前の基礎杭は、長さ7メートルほどの青森県の甲地松という名のアカマツで、11,000本も使われていたことやその全てが表面以外、腐っていなかったことなどが全国ニュースになりました。
マツに限らず植物の世界にはいろんな病害虫が存在します。なかでも経済への深刻な打撃となった「五葉マツ類発疹さび病」「クリ胴枯病」「ニレ立枯病」を世界三大樹木病害といっていましたが、そこに近年日本をはじめアジア、ヨーロッパで猛威を振るう「マツ材線虫病」が加わり世界四大樹木病害と呼ぶようになりました。さてこの感染したら致死率100%といわれる「マツ材線虫病」、樹木医を目指す皆さんなら当然ご存じのはず。1900年台前半にアメリカから日本に輸入されたマツ材と共に侵入した「マツ材線虫病」。初めての病原に耐性を持たない日本のマツは次々と枯れ、林業に多大な損失を与えることになりました。
病原は「マツノザイセンチュウ」なる線虫で、媒介者が「マツノマダラカミキリ」というカミキリムシ。この二者による共犯でマツが枯れるのです。まず初秋、マツノザイセンチュウによって枯れたマツに、マツノマダラカミキリが卵を産み付けます。卵はやがて樹体内で孵化し蛹を経て春に成虫となりマツから飛び立つのですが、マツの材内にいたマツノザイセンチュウはこの成虫の気管支などに入り込み、外へ連れ出してもらうのです。飛び立ったマツノマダラカミキは、近くの元気なマツの若い枝の樹皮を食べます(最初の食事のことを後食〈こうしょく〉という)。その時、気管支内にいたマツノザイセンチュウはマツノマダラカミキリの体を離れ、後食の噛み痕から枝の内部に侵入し、やがて樹体内で爆発的な増殖が繰り返されます。結果マツは樹脂道や形成層などの柔組織が破壊され、仮道管でキャビテーション(空洞化)が起こり、夏が終わる頃、枯死に至るのです。すると枯れてマツヤニが出なくなったマツに、マツノマダラカミキリが産卵にやって来る。こうして松枯れが永遠に続くのです。これ、試験問題に出るのでチェック!
優良建材でありマツタケも取れるアカマツ、海岸線で「白砂青松」という日本の美を作り出すクロマツ。殿中でござるは「松の廊下」、別れ話は「お宮の松」、♪あなた待つのもまつの~う~ち~……。とにかく松は、日本人の心のなかになくてはならない樹木なのです。
さて、我が家もそろそろ門松の準備をして、神様をマツことにしましょ。
ではまた、真。良いお年を!■
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