爽やかな読後感が残る
アダルト娯楽小説
■「未亡人酒場」
■葉月奏太 著
■実業之日本社文庫(初版/2018年)
葉月奏太(1969− 53歳)Hazuki Souta
横浜市に生まれ、現在は、北海道に在住し執筆活動中。2011年に「密会 濡れる未亡人」で官能作家デビュー。14年に「二階堂家の兄嫁」により、21世紀最強の官能小説大賞の優秀賞受賞。「蜜情ひとり旅」「彼女がバイクをまたいだら」「初雪のかおり」「癒やしの湯 若女将のおもてなし」など北海道を舞台にした作も多く、他に「ふしだら森の未亡人」「ももいろ女教師 真夜中の抜き打ちレッスン」「女医さんに逢いたい」「いけない人妻」「ふっくら熟れ妻」「よがり村」「おうちでハーレム」など多数。日本推理作家協会会員。
▼官能小説の拡がり
おっ! 未亡人ものの官能小説かい、と、勇んで読もうとすると、この本は〈ソコんところ〉や〈アノへん〉ではちょっと……もの足らない、のかもよ。
帯には「ハートウォーミング官能!」とあって、このキャッチをつけた担当編集者は、本書の特徴を巧く突いてる、と感じました。同じ著者の他社から出ている別作には、癒やし官能小説、とか、ほっこり官能などともあり、そう聞くと、内容や雰囲気がなんとなく知れるよう、です。
官能小説は、主に男女が濃厚に絡み合うシーンを、ひたすらイヤらしく、性的感覚を刺激するのを主眼にしていて、テーマは読者の淫心を揺り起こし、ひたすら昂ぶらせることにあります。性愛小説は、性愛を主題にして掘り下げようとするもので、似ているようでも官能小説とは異なり、だから濃密な場面はあっても、生々しく、匂い立つようなディテールが描かれてはいません。
簡単にいうと、最初のページから、いきなり熱っぽくアレがはじまって、やたらにオノマトペが多用されていれば、それはきっと官能物でしょう。
ところで、わたしがこの種の本を読んでいると、女のくせに、とか、差別的にしばしばいわれたりするのですが、そういわれてもさ、わたしはこういう傾向の読み物が嫌いではありません。もっと積極的にいえば、好きなんですよねえ。それに最近では、官能ものでも女性の書き手も増えていて、ちっとも違和感なく読めますし、わたしも最初の入口は、そういうところからでした。官能小説といっても、最近では、かなり裾野が拡がっているようにも感じます。
▼……はううッ、ふ、太いっ
……そんなことよりも、「未亡人酒場」でした。
札幌に転勤してきた中年サラリーマンが主人公です。札チョン族とか、最近はあまりいわれませんよね。で、たまたま飛び込みで入った狸小路7丁目にあるバーに通ううち、常連客たちと親交が生まれます。女性は、人妻、OL、それと未亡人の3人しか登場しなくて、ともに魅力的で、肉感的な女性ばっかり。しかも、その3人ともに情交を結ぶ、といういわば中年男の理想型みたいな物語なんですよねえ。そしてその関係は、いずれも女性の方から積極的に迫られて、いい思いをしちゃう、という筋立てなんです。
それで、濃厚なあのシーンは、人妻とOLが各1回ずつ、未亡人とは、3回ほど、1冊のなかに計5回ほどですね。それを少ないと感じるか、そんなもんでいいでしょう、と思うかは、読む人の目的によっても違ってきますから。わたしはこれくらいのウェイトで、ちょうどいいかな、と思いました。それ以外のページでは、登場人物たちの過去や、常連客同士の間にだんだんと生じてくる温かな人間関係みたいなもののおおよそが描かれていて、各人物の個性なども、ほわっ、とは立ち上ってきます。
バーに集う常連たちの仲間意識や思いやりなど、それなりには感じられ、ハートウォーミングとか、ほっこり、とかキャッチをつけられるのにも、納得です。
そうはいっても、「はああンっ、……ああッ」とか「はううッ、ふ、太いっ」「おおおッ、で、出るっ」など、そこんところの様子は、キッチリと、丁寧に描かれています。
ただ挿絵やイラストなどは使われていないので、いわゆるライトノベルとは違っていて、あえていえば、ライト感覚のエッチ娯楽小説、とでもいえるんじゃないかなあ、と感じました。最終盤では、宗谷岬で未亡人の命を救い、ハッピーエンドにまとめられ、体温の伝わってくるような、サッパリとした読後感が残るという味付けの、アダルトな官能的読み物です。(か)
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