心揺さぶられた歌声
タクの思い出
トモノ(友野 正)
タク(本名・鬼塚孝次)と最初に出会ったのは、1980年7月、ユースホステルの小使い部屋でした。
当時は「アトム」と「タク」のふたりでヘルパーをしていた。
後に知ったことですが、タクは福岡から、テレビドラマ「北の国から」に登場する丸太小屋に憧れて、ギターを抱えて北海道にやって来たのでした。吉田拓郎が大好きで、全曲をコピーしていたほどでした。

口先ではなく、惜しみなく手足を先に動かすオトコでした。1980年
雨の降り続く、寒いある日の午後、アトムと私とタクの3人で、ラジカセに60分テープを入れ、拓郎の曲を休みなく歌い続けました。タクのハーモニカは完璧で、その音色はうっとりするほどでした。
80年、81年のミーティングでは、タクはいつもギター担当。「人間なんて」は彼の十八番。仲間たちはその歌声に、心を揺さぶられました。

オレがオレがの我を捨てて生きていた、いいヤツでありました。
その後、タクは北海道と東京を行き来しながら、貧しい暮らしを続けていたらしい。やがて1983年、脚本家・倉本聰さんの「富良野塾」に建築スタッフとして参加し、塾地を切り拓く仕事に携わっていたようです。
それ以降、川湯の仲間たちとの連絡は少なくなっていきましたが、先日ネットで鬼さん(タク)が「2021年3月17日に亡くなった」と知りました。癌だったとのことです。
63歳だったはずの……タク。老けて、くたびれた姿でもちっとも構わなかったから、もう一度会いたかった。心からご冥福を祈ります。■
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