野村川湯YH 北乃國から | 野村川湯YH 野村川湯ユースホステル

北乃國から

北乃國から

十勝の丘に回帰を求めて
土方さん(佐竹正明)

キャンプ場から南方向に見えるのは、日高山脈。清冽な空気のなか、朝陽に照らされた美しい十勝幌尻岳が臨めます。 いずれの写真も「野営場 グリュンヘルツ」(北海道中川郡幕別町)にて撮影。

感覚を呼び醒ます

初キャンプは小学校中学年の頃。友人の父親に連れられて行った設営地には自分達だけ。暗闇から聴こえる鳥の鳴き声、枝葉のざわつきに眠れず聞き耳を立てていました。自転車旅行での琵琶湖大橋が遠くに見える空地での単独キャンプも忘れ難いもので、霜の降りた中で野犬の群れに取り囲まれ身動きが取れず、空腹と寒さ、恐怖で震えていました。人家から離れた採石場の巨石の隙間に潜り込んで、夕食代わりの氷砂糖を舐めながら一睡も出来ず、雨の夜を過ごした時の心細さも忘れられません。

その後、幾度もキャンプをしましたが、貧弱な道具の時期に比べ装備も良くなり、多感で臆病な年頃から慣れもあって、多少は図太くなったのか? 一寸の無茶をしながらも、単に楽しかった思い出の方が優っています。夕日が沈む前の紅暈、月光に照らされた広大な草地、満天の星空に流星、新月の闇の深さ、ランタンの灯りの下での読書やラジオから流れる音楽、黎明の薄明るさと野鳥達の鳴き声、川面を渡る朝霧と瀬音……今でも時折思い出します。そう言えばキャンプ場は、単独行では使っていません。キャンプ場の安心感や騒々しさ、団欒の様子が邪魔に感じたのかもしれません。(さすがに羆怖さに、ある時から単独テント泊は止めました)

普段の生活では得られない感覚を呼び醒ますのが、キャンプの良さのひとつでしょう。自分には自然の圧力を身近に感じ、暗闇や音、恐怖や心細さ、孤独……己の無力を思い知らされ、愚にもつかないことを延々と考える場でした。それらがあったからこそ野村川湯YHでは、逆に人が新鮮に感じられたのかもしれません。人には孤独な時間に加えて、出逢いや緩~い連帯感も必要なのでしょう。

 

消費中毒へのアンチテーゼ

4月とはいえ、こうして雪が降り積もることもあって、するとまた春がぐっと遠のくようです。中央の建物は、キャンプ場の管理棟

最近は世の中あげて「遊べ」「楽しめ」「欲しいものを買え」「美味いものを食え」「得をしろ」「便利になれ」と人々の欲望を増幅させ、扇動してきます。自らの意思で選択しているようで、実は誰かに仕掛けられ誘導されているような居心地の悪さ、穿った見方をすれば、本当に必要な情報を隠すために、不必要な情報を洪水のように垂れ流し、あるいは人々が物事を深く考える暇を与えないように、刹那的な消費快楽で思考停止を強いているかのような不気味さがあります。

その新たな消費の捌け口としてキャンプが持て囃されるのであれば、逆に少々風変わりなキャンプ場を「モーターサイクルライダー専用」として作ってみよう、と思いました。余計な付加価値とやらを付けて自主性を奪うのではなく、利用してくれる人に素材のみを用意して、人や自然との出逢い、自分を考える場を提供したいものです。……「なぜ、モーターサイクル?」それは機会があれば一杯呑みながらでも……。

それでも晴れて気温が上がるとフクジュソウが開花し、殺風景な世界に色が添えられます。

実際キャンプとは楽しいもので、何もサバイバルや精神修養の場ではありません。便利な道具を使い、非日常の環境で、野外で食事をし、結果的に人生が豊かになればそれで良しです。しかし日常の延長を持ち込み過ぎることで、失ってしまうことも多いように感じます。荘子に「機械あるものは、必ず機事あり。機事あるものは、必ず機心あり。機心、胸中に存せば、すなわち純白を備わらず。純白備わざれば、すなわち神性定まらず。神性定まざる者は、道の載せざるところなり」とあります。今の時代にこんな古臭いことを言っても一顧だにされませんが、せめて造成する時位は至らぬまでも、老子の「什伯人の器有るも而も用いざら使め……舟輿有りとも雖も、之に乗る所無く……」ということを体現してみようと思いました。

 

老いて語る場

薪にするために搬入されたミズナラの原木。薪作りは、管理人兼下働きでもある筆者の、重要な日常作業のひとつ。

単純にキャンプ場造成は新鮮な喜びでした。もう10年早かったら! とも思いますが、こればかりは仕方がない。今の自分の体力や知識、資金力ではこの程度でしょう。また、「開拓」ではなく、少しでも「森に戻したい」とも考えました。後何十年か経って移植した幼木が成長し、思い描いた森になることを自分の目で見られないのは残念ですが、まあ、それもまた以て瞑すべしです。

もちろん、昔からの仲間達も利用出来るようにクラブハウスのようなものも作ってみました。かつての仲間も初老を迎え、持病や何やらでテント泊も辛くなりました。若き日に旅をして、老いて語る場があっても良いでしょう。ともあれ、何とか形になりました。みんな! 小難しいことは置いておいて、遊びにおいで♪ ■

キャンプ場の立て看板には、クラブハウスを利用できるグループのエムブレムが掲示されています。ほら、野村川湯のドクロも笑ってるよ。

グリュンヘルツ -Grünherz-

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