野村川湯YH 解題「月刊川湯」 | 野村川湯YH 野村川湯ユースホステル

解題「月刊川湯」

連載 月刊川湯

第3回
ラブ・コール!オグス
(11号)

 

あふれるガッツ

月刊川湯は、全国5ブロックで、持ち回りによって作られていました。

なかで、北海道で作られたものが、6号分あります。主に、みゆきちゃんと毒、それと千歳出身の女子パワーによる貢献が、とくに大きいように感じられます。

基本的には投稿を主体として記事が作られていた月刊川湯は、時とともに、それもだんだん細くなり、結果的には、制作のために集まってきた仲間たちの、その場での力仕事に頼ってほとんどの記事が作られていた、といってもいいようです。

だから良くも悪くも、そこにいる人たちの個性が、ぷ~んと、放たれる紙面になっていきました。

1978年の夏に高校2年生だった千歳(新関睦子)が、まず単身で川湯を訪れ、その乱痴気話を聞きおよんで、大いに関心を持ったオグス(小楠厚子)とチャック(高松栄子)とが翌年、高校3年の夏に、今度はふたりで川湯を訪れます。こうして千歳出身の3女と、野村川湯との因縁がはじまり、ますます野村川湯小学校は、有力なタレントを得てにわかに熱量を増したのです。

この千歳3女の皆さんには、それぞれに際立った個性があり、また違った偉才もあって、とても面白い役割を担っていると感じます。

今回は、なかでもとくにユニークで、超現実的、また、ガッツあふれるオグスにターゲットを絞り、自身によって書かれたものを拾い読み、その危うさなどを、笑ってみたいと思います。

 

マグロ女

 

……その前に、少しだけオグスの性質、人柄に触れておきましょう。

同級生だったチャックや千歳によると、オグスはひと時もじっとしていなくて、常に動き続けている、と口を揃えます。多動で、活発なようです。一生、泳ぎ続けなければ生きていけない回遊魚のようだともいわれ、仲間内では「マグロ女」とも呼ばれてるらしいですが、ここはひとつ、とくに殿方はくれぐれも誤解のないようご理解下さい。

かと思えばオグスは、意外にも手先がとても器用で、たとえば緻密さの求められる針仕事などプロ・レベルといわれ、手書きの文字も読みやすく、美しい。一方で身体能力が高く、バスケや水泳など、なにをやってもすぐにコツをつかむスポーツ・ウーマンだそうです。

また、口八丁でもあり、人を惹きつけて飽きさせません。これが人生にも、仕事にも大いに役立っているようで、相手や客を巧みに持てなして信頼関係を一瞬にして築き、財布の紐を緩めさせてしまう、のだとか。

性格的には、明るくておおらか。大胆で、落ち着きなく、そそっかしい。過去や失敗はあまり顧みず、いつも前のめりに進むタイプ。機知に富み、独特なユーモアのセンスも備わっていて、センスも悪くないのです。あっ、女だてらですが、下ネタは得意みたいですね。

それから名が現す通り、情には厚く、若い頃からずっと変わらずにガッツを保ち続けていて、野村川湯のなかにあって、これがどれほどのパワーになってきたかと、わたしは感じています。

「メッセージ」として書かれている内容は、なにがいいたいのか、意味不明です。オグスのなかでは、一貫性のあることなのでしょう。

「かわゆ」は、読者への問いかけ? 超現実感があって独特です。電流が走っていて、逆流する感覚なんて、オグスにしか分からないですよね。

それとついでに、「テツヤさく」となっている「A+B」は、恐らくオグスの創作です。マツ茸+佐竹とか、キャーぁ! 恥ずかしい。

 

秋の夜

 

今回取り上げるのは、1980年秋に作られた11号です。

記事によると、10月14日に、札幌市豊平区の毒の家に、みゆきちゃん、菜穂子、よしみ、フォードと、そしてオグスが集まって制作されました。途中、北海道を旅していたらしい土方さんとカンボが加わったようですが、このふたりは冷やかしに寄ったくらいのもので、まるで戦力ではなかったみたいですね。

オグスは「みんな必死に、他人の悪口を記事に載せることに没頭してました」と冗談交じりに、さらっと書き、確かに、そんなふうな紙面になっています。とはいえ、意地悪な、陰湿な雰囲気ではなくて、へへッと笑っちゃうような感じ、かなあ。女の立場からしても、鋭いわねぇ、と感心し、なかなかに的を射ていたりして、ね。

とはいえ、やっぱり、こういう鋭い言葉に傷つく人もいるのかも知れません。もちろん悪気はないと思うのですが、これを面白いと受け取るのか、ハラスメントだ、イヤだなぁ、と感じるかは、ご本人次第なので。

ただ、人の様子を実によく見ていて、特徴をとても巧く捉えている、とは思います。そこに、微妙に下ネタを入れ込み、パラパラッと上から振り掛けたり、また下世話なネタを挟んだりしながら書くところも、とても乙女とは思えず、面白くて、独特です。

さすがオグスだわ、やっぱりこの人には、天賦の才があるんですよ。

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実況中継」は、オグスによるもので、センスや、らしさが濃厚に浸み出ています。

でも、悪意のようなものはほとんど感じないのですが、どうでしょう。キツい冗談、というほどのもので通用すると思います。そしてこれがオグスの持つ、独自のマグマなのです。

P18上段のコラム「秋の夜」の作者も、やはり書いたのはオグスでしょう。

「あっ~ いく…… TOM CAT」とか、不思議な下ネタ、スカトロ、醜聞などが一体となったコラムで、危ない面白さがあったりして。オグス臭が全開です。

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「声溜の音」は、秀逸な、いいタイトルですよね、面白いし。

ここでオグスは、悩みがあって不安定だといいつつ、幸せで、平和ともいっています。いつも、誰でも、そんなもんですよね。

同ページの下段の隅には、小さく「byしのぶ」として書いたのは、オグスかな、と思ったりもして。こういうのって、オグスの、あの個性でしか書けませんよ、って気がします。本人も、もう覚えてないんだろうなあ……

 

オグスのマグマ

 

そんなオグスでも、あれから40年を経て、昨今、若干のパワーの衰えを感じていたり、将来についての迷い? なんかも、ひょっとしたらあったりするのかもしれませんね。

……世間では、こんな不条理だってありますし。

今日は朝から電話があり、なにかと思って出たら、不愉快な内容で、どんよりとしたイヤな気分を引きずり、昼間、ちょっとした仕事上のトラブルに巻き込まれて、そのことで理不尽にも、上司とかクライアントから一方的にイヤ味をいわれ、夜には、お酒を飲んでホロ酔い気分になり、ついそのままソファでうたた寝をし、軽く、風邪を引いたりして。

たとえばそういうような、わたしたちの日常周辺でよく起こることって、もちろん自分自身のことなので、逃げ隠れせずに責任はすべて引き受けますよ。でも、その原因はといえば、何人もの人々の利害や、怠惰や、それに不可抗力などが複雑に絡み合っていることも多いように感じますけどねえ。

最近では、生活習慣や嗜好が病気やケガの原因のひとつ、とか、いわれたりもします。もちろん、病気になるのはわたし本人だとしても、遺伝的なものとか、本能的にお酒や甘味が好きだったり、忙しくてへろへろで、つい検診が面倒になったりもしますよねえ。だから現実は、そう単純に正否の定まる話ばかりでもないのですから。

わたしたちの人生は、もちろん誰のものでもなく当事者のものですが、でも、誰の責任でもなく起こってしまうようなことだって、あるのだとも思いますし。

もっといえば、大方は、誰のせいでもないのだろうし、だとしたら、空を仰いで、口笛でも吹きつつ次へと進むしかありません。または、さっさと忘れるしかないような気がします。……でないと、とてもやってられませんからねえ。

思い起こせば皆さんも、オグスの情熱に背中を押されたり、無邪気さや天真さに救われ、不思議な、超現実的言動には、腹を抱えて笑わせてもらったのではないですか。

なんの根拠もないわたしの勝手な予感なのですが、そのうちにきっと、またオグスのキツい下ネタが、ドカンと噴火するような気がしています、ふふふっ。

だって、あの頃のうら若きオグスのマグマは、地下でつながっていて今があるに違いありませんから。(ゆ)

 

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